ママダス!

発売からかなり時間が経ちましたが、ようやく読みました。
読み始めたら、二晩くらいで読めましたけど。



特定の職業の女性を数多くインタヴューしてゆく構成は、例えば永沢光雄「AV女優」や吉田豪「元アイドル!」を思い起こさせる。
が、これらと松本幸代さんの文章の読後感は、かなり違う。
ひとことで言えば、例に出した2作と比較すると、インタヴューとして、かなりうすい。
でもそれは、決して悪いことではなく。


インタヴューとはすなわちインタヴュアーとインタヴューイとの距離の取り方なわけですが、永沢のようにある種の父性で包みこんで女の子が話したがっていることを何でも引き出してしまうわけでもなく、吉田豪のように細かい面白がりどころを徹底的に掘り起こすわけでもなく、松本さんは徹底的なまでに取材対象に踏み入らない。
「なんでここで突っ込まないかなぁ」と読みながら言いたくなるくらいに、肝心なところで突っ込まない。
でもこれが松本さんのスタンスなわけで。
まぁ、永沢さんとAV女優や、吉田豪とアイドルは、もう二度と会わないだろうけど、松本さんはこれからも女子格闘家と仕事してゆかなければならない、とゆー現実的なこともあるのかもしれないけど。


読む限り、格闘家の母子たちにもそれぞれのドラマがあって、この本も作り方によっては「AV女優」や「元アイドル!」みたいな、いわゆる「濃ゆい」読み物にすることも可能だったとは思うんですが、そうしなかったのは正解だったと思います。


そして、「踏み込まない」松本さんの文章とともにあることで存在感を出しているのが、杉博文さんの写真で。
戦う女の子、その母子の切り取り方が、文章とはある意味で対照的で。


つまるところ、松本さんが母子に「踏み入らない」のは、対象と距離をおいているのではなく、距離をとれていないからなのだと。
随所で松本さん自身の母親についての言及が入り込んでることからもわかるように、女子格闘家の母子を取材することはすなわち、自分の母子関係をえぐることだから「踏み入らない」と。
(逆に男性インタヴュアーははなから明確な距離が存在するからこそ、いくらでも突っ込めるわけで。)
一方、杉氏の写真は、見事な距離感で母子の風景を切り取っていると。
ジョシカクをめぐる2つのベクトルの視線が合わさったところが、この本の魅力だと思いました。